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ケニーの消防日記 第1話「ドッグレスキュー」

 by Sunny Kamiya
 第1話 ドッグレスキュー

登場人物

Kenny 【ケニー】 Terra 【テラ】 JohnJohn
【ジョンジョン】
William
【ウィリアム】
Gypsy 【ジプシー】

キヘイ消防署で働く、32歳の消防士。いつも好奇心&向上心を持ち、自分が消防士であることに誇りを持っている熱血漢。趣味は、ダイビングと旅行、そして犬と映画が大好き。父はロバート、母はグレース(次回登場)。

ケニーのガールフレンド。 26歳、スポーツモデル。いずれは、ケニーと結婚し、ケニーJr.を育てるのが夢。ブロンドでショートカット、チャーリーズ・エンジェルのキャメロン・ディアスを大人しくした感じの女性。

小さい頃からケニーにあこがれを持つ子分的存在。マウイ島から一歩も外に出たことがない、28歳独身、彼女なし。消防車両のメカニックが好き。ケニーとダイビングに行き、タコ捕り競争をするのが楽しみ。

年齢は52歳。ケニーの上司であり、もっとも尊敬する消防隊長。家族代々消防業務に携わる家で生まれ育つ。自分の隊員達を家族同様に考え、思い、無口だが、情に厚く、涙もろいところもある。

キヘイ消防署のマスコット犬。消防署があるサウス・キヘイをいつも寂しそうにさまよっていたところをケニーに拾われた。人々のそのときの感情を読みとり、愛嬌と笑顔を振りまいて皆を癒す。


いつものように静かな朝、仮眠室の窓から見えるヤシの木がゆっくりと風に揺れ、小鳥たちが朝の訪れをささやく…。キヘイ消防署の海側にある公園カラマ・パークでは、アーリーバードたち(早起きの人たち)がジョギングや朝の散歩を楽しんでいる。そのほとんどは北米からマウイを避寒地として訪れた60歳前後の旅行客。彼らの散歩のスタイルはユニークで、大きなマグカップに入ったコーヒーを飲みながら歩いていたり、世界情勢を話しているのか、4~5人で大きな声でお互いに熱弁を奮いながら歩いていたりする。

ケニーは仮眠室のブラインドの隙間から、愉快なアーリーバード達を観察するのが、楽しみでもあった。そして、自分も歳を取ったら、毎朝いずれ結婚する彼女のテラと子供と、その孫達のバースデイプレゼントを考えたりしながら、散歩するんだろうなと思った。昨晩は何も指令が入らなかったので、ゆっくりと眠れた。1月から4月にかけては、ザトウクジラがアラスカから訪れる季節なので、海岸沿いの30号線をドライブ中、脇見運転や急停車などによる交通事故が多い。次に多いのが、スケートボーダーの交通事故。ボーダーといってもほとんどは小学生から中学生くらいの年齢層だが、彼らはスケートをすることに夢中で、車の存在に気づかず、車道に飛び出してくることも多い。サウス・キヘイ・ロードをドライブしていると道端に、事故で死んだ子供のための手作りの十字架とメッセージボードをよく見かけるが、そのほとんどはスケートボードによる事故だ。カラマ・パークにスケートボードをする公共の施設はあるが、上手い子たちがグループ化して占領しており、下手な子は利用できないので歩道やショッピングモールの駐車場で練習するしかない。

今日の午前中は非番勤務がある。非番勤務といっても梯子車の操縦訓練という名目で、署の裏庭にある大きくなりすぎたマンゴーの木を梯子車に乗って枝打ちする作業。気をつけなくてはいけないのは、マンゴーの樹液は腐食作用があるので、車の塗装に付かないようにすることだ。このマンゴーの木は、上司であるウィリアム隊長のおじいさんが消防士だったとき、貧困な社会でもマンゴーとバナナの木があれば、飢えをしのげ、地域住民にも分けることが出来るという思いを込めて植えた木だ。毎年、3月から6月にかけて、月に何百個もの実を付け、署員や、その家族、消防署に遊びに来る近所の子供達を喜ばせている。午後は恋人のテラと映画を見に行く予定。"CATCH ME IF YOU CAN "というタイトルで、予告編によると青年が自分の肩書きを次々に変えていき、パイロットや弁護士になりすまして、金を稼ぎまくる。そしてFBIのエージェントが青年の仕業であるという証拠をつかもうと追いかける実話をもとにしたストーリーだ。映画館はキヘイ消防署前の道路を渡って反対側にあるククイ・モールにあるので歩いていけるし、チケットも7ドルと安い。テラも久しぶりのデートを楽しみにしている。

後輩の知ったかぶりのジョンジョンが、マンゴーの木を切るために使う、マッカラーのチェーン・ソーに使うガソリンとオイルの混合比をベットまで訪ねに来た。ジョンジョンはいつも何かわからない事があると、必ずケニーに聞きに来る、。夜中に業務外のことでも平気で電話してくることがある。そして、不思議なのは業務中にケニーが何かをジョンジョンに教えていると必ず、指令が入ることだ。偶然なのに同じ様なタイミングで起こる出来事をアメリカでは「マーフィーの法則」というが、この朝も二人で混合燃料を作るための容器を探していたら指令が入った。二人は思わず「オー・マーフィー!!」と叫んでしまった。指令内容は「ドッグ・レスキュー」だった。隊員達は「犬が溺れたって??」と口々に伝え、「何かの間違いだろう」と疑問の色を隠せなかったが、各隊員はそれぞれのスノーケルと足ひれセットを装備し、車両に駆け込み出動した。現場は消防署から500m南のコーブ・パーク・ビーチという初心者用のサーフィンレッスンが行われている場所で、黒のラブラドール犬が、沖でサーフィンをしている飼い主を追い、リーダーが付いた状態で海に入った。水を含んで重たくなったリーダーが海底の珊瑚礁に絡まって、慌てた犬がもがいているうちに姿が見えなくなったという。第一発見者の老人は、自分が入って助けようと思ったが、泳ぎに自信がないのと心臓が悪いことを自覚し、助けにいけなかったと悔しそうに隊長に伝えていた。

必要な事情聴取を終えたケニーとジョンジョンは、株好き老人の目撃証言をもとに捜索エリアを仮定し、スノーケルと足ひれを使ってレスキュー活動に入った。そして、何かが起こったことに気づき、あわてて沖からビーチに戻ってきた飼い主の少年に、隊長は落ち着いて待つように肩を抱きながらなだめた。1分経つか経たないうちにジョンジョンが水面と珊瑚礁の中間、約水深2mの海中に浮いている黒い犬を発見。潜ってリーダーを外そうとしたが外れないために、首輪のベルトを外して、犬を海面まで持ち上げ、ケニーと一緒にビーチまで救助した。ウィリアム隊長は民間救急隊に無線連絡し、アニマルホスピタルへの搬送要請を指示するとともに、アニマルホスピタルに受け入れ態勢を整えておくように連絡した。

何分間沈んでいたのかわからないが、犬は意識不明、瞳孔散大、脇下動脈を確認したが脈が得られなかったため、ケニーが犬の気道を確保し、マウス・ツー・ノーズを開始。ジョンジョンが犬を横に寝かせた状態で、心臓マッサージをはじめた。犬の口は縦に長く、人間のようなマウス・ツー・マウスはできないので、気道を確保した状態で犬の口を両手で押さえ、鼻から息を送る。心拍数は人間の赤ちゃんよりも早いため、小刻みなペースで揉むような感じで軽くマッサージする。3週間前に、消防署のマスコット犬ジプシーを保健所から里親として引き受けるとき、オーナーに義務づけられているペット講習会で習ったばかりのテクニックだった。

ケニーは到着した民間救急車に毛布でくるんだ犬を乗せ、ポケットマスクに酸素ホースを取り付け、そのまま同乗し、人口呼吸を継続、救急隊員がジョンジョンに変わって、補助的な心臓マッサージを継続し、12km先のアニマルホスピタルに向かった。現場を出発後2分くらい人口呼吸を続けたとき、犬の後ろ足が明らかに反応した。力はなかったが車の振動によるものではなく生体反応であることを確認できた。まずは、一時的な蘇生に成功したようだ。ただ、衰弱しきっており、どこまで回復するのか。「また、あの少年と遊べるようになってくれ」と心の底から祈った。カフルイのアニマルホスピタルに到着すると、救急医療センター以上のスタッフの数と施設規模で、犬を抱きかかえて救急車を降りたケニーはその態勢に驚いた。マウイの市民が行く救急医療センターの関係者に見せてやりたいと思った。

動物救急医療チームは手際よく救命処置を開始したが、約30分後、犬は息を引き取った。ケニーは院内の公衆電話から指令課、および、ウィリアム隊長に状況報告した。そして、犬が助からなかったことを告げた。電話の向こうで海中で犬を発見したジョンジョンのため息が聞こえた。犬の飼い主である少年クリスはウィリアム隊長の表情から、犬のクーが助からなかったことを悟った。クリスと目があった隊長もすでにクリスが状況を把握したことを知り、彼を抱き寄せ、一緒に悲しみを感じた。

しばらくするとTシャツに海パン姿のケニーが救急車に送られて署に戻ってきた。クリス少年は涙を拭いながら「ありがとう、ケニー」と言った。大好きなケニーの姿を見つけたマスコット犬ジプシーがケニーの足下に寄り添ってきて、悲しさのやり場のないクリスにも愛嬌を振りまいた。クリスはジプシーを思いきり抱きしめながら、心の中でクーに別れを告げた。午前9時、勤務交代も終わり、予定通り非番勤務が開始され、クリスはケニーの操縦する梯子車のバスケットに乗り、マンゴーの木の枝打ち作業を手伝った。そして、はじめて梯子車に乗せてもらえたのが嬉しくてサウス・キヘイロードを行き交う車に得意げに手を振った。クリスは心の中で自分が消防士になったような気分でうれしかった…。


  ※この小説はフィクションです。小説に登場する人名および名称等は、実在の物と一切関係ありません。 


Reported in 2006.