2021.10.25

消防ヘルメット消防ヘルメットFIRE HELMET COLLECTION,消防ヘルメットコレクション

命の絆No.72 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 サン・バーナディーノ・カウンティ消防

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命の絆 消防ヘルメット

消防ヘルメットコレクションNo.72

THE BOND OF BROTHERHOOD
助けを求める声があるならば、いかに過酷な災害現場であっても身を投じていく消防士たち。

時代や国境を超え、すべての消防人の心にある博愛の精神が彼らを突き動かす。隊という名の“家族”が、危険な現場で協力し合い“人命救助”という任務を成し遂げる。

「消防ヘルメット」はそんな彼らの活動を支え、危険から身を守る盾となってくれる。現場には要救助者、仲間、そして己の命をつなぐ博愛の絆があり、その象徴が消防ヘルメットといえるであろう。

 
No.72 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 サン・バーナディーノ・カウンティ消防
アメリカン・スポーツ社 ポリカーボネート製ヘルメット

 
大都市ロスアンジェルス市を取り囲むロスアンジェルス・カウンティ。さらにこの東部に隣接し、はるか東・南及び北に広がる地域がアメリカ合衆国でもっとも広いサン・バーナディーノ・カウンティである。マサチューセッツ、ロードアイランド、デラウェア及びメリーランドの4州を合わせたよりも大きく、1853年に設立された。このカウンティを取り巻く環境は厳しく、荒野や老年期山地、砂漠が広がり、主な植生は南西部に森林として存在するのみである。それゆえにこの地への入植者は開拓に苦労を重ね、結果としてトマトや野菜の栽培で名を上げるようになった。工業化も進んで人口は208万あまりに増え、「内陸部エンパイア都市」と称されている。

気象面では風が問題となる。はるか東北方のコロラド州ロッキーの山並みから吹く風がネバタ州のモハベ砂漠を駆け抜ける際に熱気をはらみ、カウンティ東北方のサン・ガブリエル山脈をも越えて、乾燥しきった熱風となって強烈な速さで吹きつける。この熱風は「サンタ・アナの風」と怖れられ、春から秋にかけては「ワイルド・ファイア」と呼ばれる森林火災の発生に備えなければならない。2014年の4月から5月にかけては500年来の大干ばつもあって、警戒中にもかかわらず大規模に森林が焼失。住居の多い渓谷沿いや山裾で建物被害が発生して住民の避難を余儀なくされた。それだけに気象台から日々発表される「ワイルド・ファイア情報」と、これに基づく「赤旗(レッドフラッグ)警報」への注意が不可欠である。またカウンティの中央庁サン・バーナディーノ市では、山裾地区への「ワイルド・ファイア・ハザード・マップ」も公表している。2003年10月25日、北からの風速30マイルの風、湿度9パーセント、気温華氏90度という気象状況のなかで発生した「ベジテーション(野菜栽培地)火災」をきっかけに作られたもので、住民の裸火使用とキャンプファイアを規制している。この「ベジテーション火災」ではカウンティ北方のウォーターマン渓谷で91,000エーカーの森林と330戸の住居を焼失し、126万USドルの損害額を出した。

この広大でワイルド・ファイアの危険性が高いサン・バーナディーノ・カウンティを守るのは各自治区の合計66の消防機関であり、その多くはプロフェッショナルによる常勤体制を敷いている。災害にはこれら消防機関が「サン・バーナディーノ広域連合地区消防(サン・バーナディーノ・コンソリデーティッド・ファイア・ディストリクト・ファイア・デパートメント)」として一元的に対処しており、第1〜第6ディヴィジョンが消防活動、第7ディヴィジョンが救急、作戦及び訓練を担当。その下の第1〜第5、第7、第8及び第10の8のバタリオン、合計86の消防ステーション(ただし各自治区が年次契約を継続するか否かで休止となることもあり、統計の上では94)を統括指揮している。消防ステーションの数は規模の大きな順に、中央庁のあるサン・バーナディーノ市消防本部が11、ついでアップル・バレーが9、コルトン市及びレッドランドが各5、リアルトが4で、ほかの地区が各1~3の布陣である。配置車両等は‘MEDIC ENGINE’ポンプ車48両、水槽付ポンプ車20両、連結はしご車6両、スクアッド車6両、レスキュー車3両、ブラシ・エンジン(ワイルド・ファイア用)32両、ハズマット車9両、空港クラッシュテンダー4両、ALS/BLS救急車24両、消防ボート5隻。主要人員はキャプテン職180名、それ以外の消防・救助・救急スタッフ935名、局長ほか事務職員で構成されている。

紹介するのは1960年代半ばから1970年代末ごろまでサン・バーナディーノ市防火担当区で使われたもので、第4バタリオン・チーフとして活躍したファイア・キャプテンが着装していた。白色のポリカーボネート一体成形のシェルで、短めの前庇と長めの後ろ庇を持つ柔らかな曲面で構成。前部に顔面保護のクリア・シールドが装着され、首頚部を守るしころは後部帽体内に収まっている。ライナーやしころは人工皮革製、あご紐は新素材繊維である。また両側面には銀色地に青色でプリントされたカウンティの消防章がシールで貼られている。シールのデザイン上部にはUSAの白頭鷲とカリフォルニア州旗であるカリフォルニア・ベアが配され、中央にカウンティの中央山脈、天秤皿、開拓で造成した野菜畑、その下に工業化を表す歯車とその中心を貫くサザンパシフィック鉄道のALCO製PA+PB型大型ディーゼル機関車が描かれている。最下部の1853という数字はサン・バーナディーノカウンティの設立年である。ヘルメットはロスアンジェルス市西方のコンプトンにあるアメリカン・スポーツ社の製品で、カリフォルニア州南部域で使われることが多かった。

このヘルメットはサンディエゴ消防局のジョーンA.ループ氏から1983年10月14日に贈られた。今も南カリフォルニアでのワイルド・ファイアの情報に触れるたび、熱波吹き抜けるなかで極めて危険な森林火災に果敢に立ち向かう消防士の姿が想い浮かぶ。

PROLOGUE 災害現場で活動する隊員たちの姿で、ひときわ目を引く存在が「ヘルメット」である。
戦闘用の兜をルーツに持つヘルメットの目的は、衝撃から頭部を守り、直接的な負傷を防ぐためにあるが、国によりさまざまな特色を見せ、性能やそれにともなう形状、デザイン、用いられる素材は時代や環境とともに進化を遂げ続けている。消防で用いるヘルメットも、“災害”という敵から“消防士”という戦士を守るための“防具”であるといえる。

消防におけるヘルメットとは、要救助者や仲間の命を結ぶ重要な存在である。災害現場では突如倒壊物が襲い掛かってきたり、足場の崩れ、転落の危険に晒される。もし頭を打ち意識を失えば、要救助者の生命は守れない。隊員自身もさらなる悲劇に見舞われないとも限らない。消防ヘルメット一つひとつにはストーリーが宿っている。世界の消防が使用した「ヘルメット」から、郷土を災害から守ってきた消防士たちの魂を伝えていく。



11|01 2021/FIRE RESCUE EMS vol.100

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