2021.11.01

ロープレスキュー ここが知りたい!ロープレスキュー ここが知りたい,救助訓練

【第8回 支点作成について考えよう!その1】
〜連載企画 ROPE RESCUE COLUMN ロープレスキュー ここが知りたい!〜

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連載企画 ロープレスキューコラム

今回はリクエストが多かった支点作成について2回にわたって書いてみます。

ロープレスキューにおいて支点作成は基礎の基礎です。現場にはいろいろな支持物があり、それを評価し、支点を作成する必要があります。訓練棟には(現場にはないような)都合のよい支持物が用意されており、効率的で安全な訓練ができる一方で、支点作成の経験値が稼げないデメリットがあります。
支点作成はロープやスリングの設定方法より先に支持物を探し出し、選ぶ作業から始まります。知らないこと、訓練していないことはできないし思いつきません。以前、国際的なシンポジウムで「日本の現場には欧米のような支点がないため、ロープレスキューより操法が有効」と発言された方がいました。残念ながら多くの方はそういう感覚でしょうし、ロープレスキューを活用できない一因でもあるでしょう。
当然ですが、こういった技術は雑誌を眺めたぐらいで使いこなせるものではありません。適切な教育を受け、訓練を実施したうえで行うようお願いします。

支持物:支点を作成する、支点として利用する物体。地物も含みます
支点:力を掛けたり支えたりするもので、単体または複数の支持物により作成します

支点作成の流れ

①支点に必要な能力を考える
これから実施したい活動でどのくらいの力が発生するのかを予想しつつ、それを支える支点にはどのくらいの強度が必要なのか?どこにあるのが望ましいのか?までを考える必要があります。たとえば「ロープレスキューだから12kNを越える支点が複数必要になるな」とか「チルホールを使用するから1.6tの数倍の強度は必要だな」という感じです。
※各作業内容でどのくらいの強度が必要と考えるかは法令、組織、指導団体によって違いがあります

②支持物を探す
活動を支える支点を作成するため、手頃な支持物を探します。ここでいくつ選択肢を見つけられるか、個人の能力によって大きく左右されます。位置関係をふまえて分散支点や方向変え支点を作成することも考える必要があります。

③支持物を評価する
支点を作成する前に、支持物の能力を観察し、評価します。強度がどのくらいあるのかを予想し、信頼性がどのくらいあるのかを考えます。たとえば、樹木は高い強度があることが多いですが、生きものですので信頼性は高くありません。乗用車を支持物とする場合、重量は軽いですが、その重量は車検証で確認できるため信頼性は高いといえるでしょう。

指揮者と支点作成を実際に行う隊員は、以上の判断を短時間で行う必要があります。何パターンかの検討を行うために複数回行うことも必要です。都合がよさそうな支持物があれば、それにあわせて方針を立てることもできますが、それに囚われて不安全になったり、視野狭窄に陥らないよう注意が必要です。(目的と手段が逆にならないように)

さまざまな支持物

樹木
高さ1m位置の直径が20cmを越えるような大木であれば、ロープレスキューには十分な強度があります。しかし、枯損・落雷・病気・虫食い・他の植物による寄生・空洞(うろ)、地盤の軟化など、不確定要素がたくさんあり、評価の作業は念入りに実施しなければなりません。また、街路樹などは根の張りが浅く、強度が期待できない場合があります。

枯れてキノコが生えた木

路上の防護柵
ガードレールやガードパイプなど、道路上には支持物がいろいろあります。車両を受け止めるための防護柵には高い強度があり、ロープレスキューには十分な強度があります。一方、歩行者や自転車を対象とした防護柵には高い強度が期待できません。同じ見た目でも、道路(橋)の右と左で車両用と歩行者用に分かれていることもあります。

鉄骨の構造物
訓練でも多用されています。大きな建物や構造物の部材であれば非常に強固であることが多いですが、腕よりも細いような柱や梁(はり)や、そういった部材をたくさん組み合わせて成形されている建物の場合、部分的な強度はそれほど高くありません。とくに長い部材の中央部に力をかけるのは冒険的行為です。また、ボルトやナットなど留めてある部分の点検も必要です。(少なくとも1本〜2本のボルトで留まっている部材に命をかけるべきではありません)
通常、溶接で留められていることはありませんので、溶接の場合は接合部を十分に確認してください。DIYで仮留めされているだけだったりします。

コンクリート構造物
公共施設の柱や橋脚のようなものは非常に強固ですが、商業施設や住居などの柱は表面だけコンクリートパネルで、中は中空(鉄骨だったりそもそも飾りだったり)ということもあります。後述しますが、コンクリートにも種類があるため壁面に負担をかける場合は注意が必要です。
また、路上のバリケードや工作物の土台などは、単なる大きなブロックで簡単に動いたり転倒することがあります。

手すりや支柱
ベランダや屋上にある手すりや支柱は、床面に埋め込まれた「基礎」で立っていることが望ましいのですが、実際には床面に基礎を置いているだけだったり、それを接着剤で留めているだけだったりします。
 住居や共用部分の手すりには安全基準(自主基準)がありますが、人がもたれかかっても壊れない程度のもので、ロープレスキューの支点に使うには十分とはいえません。また、屋上のような本来は居住者が出入りしないような部分は、前述のような簡易施工のことも珍しくないため注意が必要です。

あと施工アンカー
コンクリートや岩に打ち込むアンカーボルトです。ドリルで穴を開け、穴を清掃し、差し込んだアンカーを締めるだけで2分もかからず施工でき、適切に施工されていれば高い破断強度を期待できます。ただし、下地になるコンクリートの強度が弱い場合は強度が低下します。住宅や雑居ビルなどに多いALC造の場合、通常のRC造と比べて大きく強度が低下します。
迅速、安価に設定できる支点ですが、日本の消防ではまったくといってよいほど取り入れられていません。コンクリートの瓦礫救助では必須技術ですから、該当する部隊の方は習得しておきましょう。

トルコンアンカーの施工

自動車
車両が進入できるところであれば非常に便利です。乗用車や小型トラックの場合は車検証で重量を確認しましょう。必ずエンジンを切り、パーキングブレーキをかけ、輪止めを入れ、キーは指揮者が管理します。車輪を支点とする場合、必ず重いほうの車輪(乗用車ならだいたい前)を使用し、タイヤではなくホイールを使用してください。タイヤにスリングを回すのは絶対に避けてください。簡単にタイヤの下をすり抜けるだけでなく、タイヤがパンクしたりホイールから脱落するとアウトです。トラックの場合は前輪が固定されませんし、乗用車の後輪の場合はサイドブレーキだけなので簡単に回転します。
また、引っ張る方向が悪いとアライメントが狂うこともあるので注意しましょう。

いかがでしたか?現場で見つけられる支持物はもっとたくさんありますし、今回紹介した内容もごく一部分です。office-R2の「支点作成ワークショップ」ではもっと詳しく解説していますので、ぜひご検討ください。
次回はテープスリングなどを使用した支点作成の手技について紹介したいと思います。

大西 隆介(おおにし りゅうすけ)
大学時代に公共政策を学び、部活では登山やクライミングに没頭した経験からロープレスキューの世界へ。日本の労働安全法令や消防組織に適した救助技術を研究している。救助大会「縄救」や「日台消防交流会」などのイベントも主宰。通称「ジミーちゃん」

office-R2 ロープレスキュー講習主に10.5mm~11mmのロープ資器材を用い、国内法令に準拠した活動を提案する講習。レベル1~2では「ロープ高所作業」「フルハーネス」の特別教育修了証が交付される。講習などの情報はHP、Facebook、Instagramなどで随時更新。

お問い合わせ090-3989-8502
ホームページhttps://r2roperescueropeacce.wixsite.com/office-r2

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